相続人である長男と長女は、父の相続財産である以下のA土地を、借地権と底地に区分して「長男が借地権を取得し、長女が底地を取得する。長男は長女に対して地代を支払う。」という遺産分割協議をまとめました。
A土地:①長男の自宅敷地(父より使用貸借)
②相続税評価額100,000千円
③借地権割合60%
この時の課税関係はどのようになるのでしょうか。
Ⅰ 借地権の設定による相続税の課税価格
借地借家法15条では「土地の所有者は借地権を共有とする場合を除いては、自己の土地に借地権を設定することができない」と規定されています。このことは、分割協議においてA土地を長男の建物の所有を目的とする借地権と底地に区分し,長男が借地権を取得し,長女が底地を取得するという遺産分割はできないということになります。したがって、この遺産分割は長女がA土地を取得し,長女はその代償として,長男に対しA土地に建物の所有を目的とする借地権を設定させるという債務を負担する代償分割ということになります。
この遺産分割に基づく各人の相続税の課税価格は、長男が借地権の設定請求権として「代償債権60,000千円」、長女は借地権の設定債務として「A土地100,000千円・代償債務△60,000千円」となります。
Ⅱ 借地権の設定による譲渡所得
1 譲渡所得の収入金額
この遺産分割により、A土地に借地権が設定された場合には,その借地権の設定は,長女が遺産分割において負担した代償債務の消滅による経済的利益を対価として、長女の譲渡所得の収入金額となります( 所法36①② )。
借地権の設定に係る譲渡所得の収入金額は,遺産分割の履行としてA土地に借地権が設定されたことにより消滅した代償債務(借地権設定債務)の額となり,その価額は,借地権が設定された時のその借地権の時価に相当する金額となります( 所法36①② )。
(注)借地権を設定した時のその借地権の時価に相当する金額が借地権を設定した時のA土地の時価(通常の取引価額)の50%に相当する金額以下の場合には,その経済的利益の額は,不動産所得の収入金額とされます( 所法26,33① )。
2 譲渡所得の取得費
借地権の設定の対価が譲渡所得に該当する場合には,その譲渡所得の金額の計算上,その借地権を設定したA土地の取得価額(被相続人から引き継いだ取得価額)のうち、借地権設定時のその土地の時価のうちに借地権の設定対価の占める割合を乗じて計算した金額が取得費として控除されます(所法60①,所令174①)。
なお、「相続税額の取得費加算の特例」は,相続又は遺贈により取得した土地に借地権を設定したことによる譲渡所得についても適用できるものとされています。
Ⅲ 借地権の設定による借地権等の取得価額
1 長男の借地権の取得価額
長男が代償分割により取得した借地権は,相続により取得した資産ではありませんから,所得税法60条(相続等により取得した資産の取得費等)の規定は適用されません。したがって,被相続人である父の取得価額及び取得時期の引継ぎは行われません。
長男が代償分割により取得した借地権は,借地権を設定した時において,時価(通常の取引価額)で取得したものとされます。
2 長女の借地権の設定後のA土地(底地)の取得価額
借地権の設定が譲渡所得に該当する場合には、その借地権の設定後における長女のA土地(底地)の取得価額は,父から引き継いだA土地の取得価額から借地権の設定時に譲渡所得の取得費とされた金額を控除した残額となります( 所令175① )。