甲は乙との賃貸借契約により賃借している建物に対して、乙の承諾を得て甲の費用負担により賃借建物の模様替え、付帯設備の増設を行いました。その後、甲が亡くなった時に当該付帯設備は相続財産としてどのように評価するのでしょうか。
1 附属設備としての評価
民法第242条では「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」と規定されています。このことは、建物の賃借人の増設した附属設備(所有者建物に従として付合した動産)は不動産の所有者に帰属することになるため、賃借人の動産としての評価をしなくてもよいということを表しています。
また、財産評価基本通達92(付属設備等の評価)の定めは、当該建物について所有権を有する場合のその建物に付属する設備等の評価に関する定めであって、当該建物について所有権を有しない賃借建物の付属設備の評価を定めたものではないと考えます。
これらにより、賃借人の動産評価は必要ないということになります。
2 借家権の検討
一方、民法242条における「権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」というただし書きは、権原である借家権の有無の検討が必要ということになります。
借家権の評価に関しては、財産評価基本通達94 において「この権利が権利金等の名称をもって取引される慣行のない地域にあるものについては,評価しない。」と規定されており、特殊な地域を除き、借家権は積極財産としては評価の対象とされることはありません。
したがって賃借建物の存する地域における借家権利金等の名称による取引慣行があるのかないのかを検討し、当該建物が借家権利金等の名称による取引慣行のある地域においては、賃借人が行った増設工事については動産評価をし、取引慣行のない地域にあるものである場合には、当該借家に関する権利の価額は評価する必要がないのであって、この場合には、当該無価値の賃借権に付着する付属設備等に関する権利の価額も、当然に評価不要と考えます。
3 費用償還請求権としての評価
建物の賃借人がその賃借中の建物の従物として付属設備等の設置工事を行った場合には、当該付属設備等は当該建物に附合してその付属設備等の所有権はその建物の所有者(賃貸人)に帰属することになります。そして、当該建物について支出した有益費用については、賃借人は賃貸人に対してその有益費用の償還請求権を取得することになります(民法第608条)。したがって、この場合には当該償還請求権の価額は、当該建物の賃借に係る権利(借家権)の価額とは別の財産として、つまり「債権」として評価することになります。
(注)賃貸借契約書において、建物の明け渡し時に際して「必要費・有益費の償還を請求しないこと及び造作その他の物件の買い取り等の請求をすることはできない」などの取り決めがある場合には費用の償還請求権を放棄していることになり、「債権」として評価する必要はありません。