遺産の一部分割が行われ、小規模宅地等の特例対象宅地として分割財産にA宅地、未分割財産にB宅地が含まれている場合、相続税の申告期限により、相続人甲がA宅地について「特例適用にあたっての同意」欄に署名し、選択特例対象宅地等として申告しました。
未分割財産についてのその後の分割協議において、相続人乙が取得することになるB宅地について小規模宅地等の特例適用を要求した場合、A宅地に代わりB宅地について小規模宅地等の特例適用は可能でしょうか。
1 選択特例対象宅地等の選択の同意
選択特例対象宅地等の選択は,特例対象宅地等のすべてを取得した者が1人である場合を除き,「特例対象宅地等を取得したすべての者のその選択についての同意を証する書類」を相続税の申告書に添付して行うことが必要です( 措令40の2③ )。
この選択特例対象宅地等についての選択の同意は,実務上は,相続税の申告書の第11・11の2表の付表1の「1 特例の適用にあたっての同意」欄の「特例の対象となる財産を取得したすべての人の氏名」欄に同意者の氏名を記載して行うことになっています。
2 相続税申告時における選択の無効
小規模宅地等の評価減の特例の適用を受ける特例対象宅地は選択特例対象宅地等として, 特例対象宅地等を取得したすべての者の同意 を得て選択することが必要であり、申告時に選択していない宅地等は小規模宅地等の適用を受けることができないことなり、その後において適用する宅地の選択替えは原則として認められません。
また、未分割の特例対象宅地等については,小規模宅地等の評価減の特例の適用を受けることはできませんが(注1),遺産の一部分割が行われた場合で,まだ分割が行われていない遺産のなかに特例対象宅地等が含まれているときは,その遺産の一部分割により特例対象宅地等を取得した者のほかに,その未分割遺産について相続分を有する相続人の同意を得る必要があります。
今回の場合には,未分割遺産のなかに特例対象宅地等に該当するB宅地が含まれていますので,相続税の申告の段階でA宅地について特例の適用を受けるためには,これらの宅地等を取得した相続人Aのほかに,相続人Bの同意を得る必要があったことになります。
特例対象宅地等に該当するB宅地を含む未分割遺産について相続分を有する相続人Bの氏名が,相続税の申告書の第11・11の2表の付表1の「1 特例の適用にあたっての同意」欄に記載されていないということは,相続税の申告書において小規模宅地等の評価減の特例の対象としたA宅地の選択は不適法な選択ですから,選択の効果は生じておらず,選択特例対象宅地等の選択は,まだ行われていない状態にあるということができます。
- (注1)この特例は申告期限までに遺産の分割がされていない宅地等について適用されません。ただし、申告期限から3年以内に分割された場合には、更生の請求をすることにより、この特例の適用を受けることができます(措法63の4④、措令40の2⑪)
3 修正申告・更正の請求における選択
今回の相続税の申告書における選択特例対象宅地等の選択は不適法な選択ですから,遺産分割を基因とする修正申告書の提出又は更正の請求において,A宅地に代えてB宅地を小規模宅地等の評価減の適用を受ける選択特例対象宅地等として選択することは,初めての選択であり,選択特例対象宅地等の選択替えではありません。
したがって,B宅地について小規模宅地等の評価減の特例の適用を受けることができます。