1 相続税の課税財産と課税価格
相続税における課税価格は、相続税法第11条の2において「相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもつて、相続税の課税価格とする。」と定められています。また、課税価格の計算の基礎となる財産の評価に関する取扱いは財産評価基本通達の定めによることとされています。
しかしながら不動産の売買契約締結後に売主や買主に相続が発生した場合の相続税評価額の課税価格について財産評価基本通達に定めはなく、実務上では、最高裁判決(昭61.12.5 第2小法廷・税資第154号781頁*1)に基づくと思われる国税庁資産税課情報(平成3年1月11日付国税庁資産税課情報第1号)により、相続税の課税価格の計算の基礎に算入される(課税)財産は、「土地建物」ではなく、「残代金請求権」として取り扱うこととされ、買主からの売買代金未収入金額による評価額とされています(手付金は現預金に算入済)。
*1売買契約中の土地に相続が開始した際の課税財産について争われた件
判決要旨:「たとえ本件土地の所有権が売主に残っているとしても、もはやその実質は売買代金債権を確保するための機能を有するに過ぎないものであり、相続人の相続した本件土地の所有権は、独立して相続税の課税財産を構成しないというべきであって、本件において相続税の課税対象となるものは、売買残代金であると解するのが相当である。」
2 相続税の取得費加算における課税財産と課税価格
(1)不動産譲渡時の課税財産の疑問
相続人が相続した不動産を譲渡した場合、譲渡所得の計算において、相続時の納税額を取得費に加算できる「相続税の取得費加算」という特例があります。しかしながら相続税の対象とされる課税財産が残代金請求権とされながら、不動産の売却時に「相続税の取得費加算」の計算上不動産を譲渡したものとして計算をしてよいのか、また適用可能で場合であっても譲渡されたものとされる不動産の課税価格はどうなるのかという疑問が生じます。
(2)不動産譲渡時の課税財産と譲渡価額
国税庁の質疑応答事例「相続開始時点で売買契約中であった不動産の譲渡についての相続税額の取得費加算の特例の適用」においては、「その譲渡所得の申告において相続税額の取得費加算の特例を適用して差し支えありません。」として課税財産を土地・建物等の残代金請求権ではなく、土地・建物そのものとしています。一方、「その相続人の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡資産の価額」については譲渡収入金額(残代金請求権+手付金に相当する金額)としており、不動産の譲渡として特例計算が可能であることを示しています。