1 遺留分減殺請求による取得財産
(1)減殺請求により取得した返還財産
昭和41年7月14日最高裁判決によれば、減殺請求権は形成権であり,減殺請求権が行使された場合には,その対象となった遺贈又は贈与は,遺留分を侵害する限度において効力を失い,受遺者又は受贈者が遺贈又は贈与により取得した権利は遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属するものとされ,目的物の一部減殺で足りる場合には,その目的物について,受遺者又は受贈者と遺留分権利者の共有関係が成立するものとされています。
したがって,遺留分権利者が減殺請求に基づき受遺者・受贈者から返還を受けた財産は,遺留分権利者が被相続人から相続により取得した財産と解することができます。
(2)減殺請求により取得した価額弁償財産
遺留分権利者が減殺請求に基づき受贈者又は受遺者から価額弁償として取得した財産は,相続に関連して取得した財産ではあっても,民法上の相続により取得した財産には該当しません。また,相続税法上の「みなし相続財産」にも該当しません。
しかし,相続税法は,減殺請求により取得した価額弁償財産の価額は,その取得した者の相続税の課税価格の計算の基礎に算入することとしています。
2 遺留分の減殺請求と譲渡所得
(1)財産の返還があった場合の受遺者・受贈者の課税関係
遺留分権利者が減殺請求により取得した返還財産は,遺留分権利者が被相続人から相続により取得した財産と解されますから,その返還財産が譲渡所得の基因となる資産であっても,その返還をした受遺者・受贈者に対し譲渡所得の課税が問題となることはありません。
(2)価額弁償があった場合の受遺者・受贈者の課税関係
受遺者・受贈者が,減殺請求に基づきその者が有する譲渡所得の基因となる資産をもって価額弁償をした場合には,遺産の代償分割により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合と同様に,その価額弁償により移転した資産について受遺者・受贈者に譲渡所得の課税問題が生じます( 所基通33-1の5 )。
すなわち,価額弁償財産が譲渡所得の基因となる資産である場合には,その価額弁償財産の移転は,遺贈・贈与により取得した財産の返還義務の消滅という経済的な利益を対価とする有償譲渡に該当し,その移転時において,譲渡所得の課税対象となります。この場合,その譲渡所得の収入金額は,価格弁償の額が確定した時のその価格弁償財産の価額(通常の取引価額)となります。
3 遺留分権利者が取得した資産の取得価額
(1) 返還財産の取得価額
遺留分権利者が取得した返還財産は相続により取得した資産ですから,その返還財産が譲渡所得の基因となる資産である場合には,その返還財産は,被相続人のその財産の取得価額及び取得時期を引き継ぐことになります( 所法60① )。
(2)価額弁償財産の取得価額
遺留分権利者が取得した価額弁償財産は,遺産の代償分割における代償財産と同様に,相続税の課税の対象とされても,民法上の「相続」により取得した財産ではありませんから,価格弁償の額が確定した時において,その時の価額(通常の取引価額)により取得したことになります( 所基通38-7 )。