遺産分割において現物分割が困難な場合に共同相続人のうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した相続人が他の共同相続人などに対して債務を負担することがあります。この代償債務・価額弁償は相続により取得した財産の取得費に影響するのでしょうか。
1 相続人(代償債務者)
(1)所得税法の取扱い
相続により取得した譲渡所得の基因となる資産の取得費の計算の基礎となる取得価額は,次に掲げる相続により取得した資産の区分に応じ,それぞれ次のようになります( 所法60 )。
① 単純承認に係る相続…被相続人がその資産を取得した時の取得価額
② 限定承認に係る相続…相続開始の時における価額(通常の取引価額)
(2)代償債務の取扱い
遺産の代償分割により負担した代償債務に相当する金額は,その遺産分割に係る相続により取得した資産の取得価額に算入されません( 所基通38-7 (1))。
遺産の代償分割により負担した代償債務の額は,相続税の課税価格の計算上控除されていますから,この債務の額を遺産の代償分割により取得した資産の取得価額に算入することはできません。
相続税の計算上控除した代償債務の額を,さらに,代償分割により取得した資産の取得価額に算入してその資産の譲渡所得の金額の計算上控除するということは,代償債務の額を二重に控除することになります。
*相続財産とともに承継した被相続人の債務が相続により取得した資産の取得費を構成しない理由も,相続により承継した債務の額は,相続税の課税価格の計算上,相続により取得した財産の価額から控除されているからです。
2 相続人(代償債権者・遺留分権利者)
遺産の代償分割により代償債務を負担した者からその債務の履行として取得した資産又は遺留分の減殺請求により受遺者・受贈者から価額弁償(民法1041条)として取得した資産は,相続により取得した資産ではありませんから,その資産の取得費の計算の基礎となる取得価額は,その取得の時の価額(通常の取引価額)となります( 所令126 ①五, 所基通38-7 (2))。
なお,遺留分の減殺請求により受遺者・受贈者から返還を受けたその減殺請求の目的となった資産は,相続により取得した資産に該当します。