父甲が所有しているA土地(時価8,000万円、取得価額5,000万円)と長男乙が所有しているB土地(時価5,000万円、取得価額4,000万円)を交換した場合、課税関係はどのようになるでしょうか。
交換により譲渡した場合の収入金額は固定資産の交換の特例(所法58条)の適用を受けない場合は原則(所法36条)により、交換により取得する資産の時価相当額によりますが、甲・乙間に特殊関係がある場合には、その交換は純粋な経済取引とは認められず、乙は、A土地とB土地の時価の差額を贈与(低額譲受けによる経済的利益の享受)により取得したものと認められます。そのため、その贈与により取得したと認められる金額(3,000万円)は、乙の譲渡所得の収入金額とはならずに、乙は甲から3,000万円の贈与を受けていることになります。また、甲はA土地を乙はB土地を各々5,000万円で譲渡したことになります。(所法36、相法7、平元・3・29直評5・直資2-204)。
1 甲・乙の課税金額
(1)譲渡所得
甲:(収入金額)5,000万円-(取得費)5,000万円=(譲渡所得)0円
乙:(収入金額)5,000万円-(取得費)4,000万円=(譲渡所得)1,000万円
(2)贈与税
乙:(課税価格)3,000万円
2 不等価交換による取得価額
不等価交換により取得した不動産を「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び建物等」と考えた場合に、昭和63年7月19日最高裁第三判決において「負担付贈与について所得税法第60条第1項の贈与等により取得した資産の取得費等の適用はない」との判断があります。つまり、贈与者の取得価額及び取得日は引き継がないこととなります。
負担付贈与や対価を伴う贈与では、贈与者は負担額減少相当額を対価として贈与した財産を譲渡したものとされ、受贈者(実質譲受者)は支払った対価で収入金額とされる金額、言い換えればキャピタルゲインによる譲渡収入相当額により当該資産を取得したものと同視しされますから、実際に支払った金額の収入金額とされる金額が当該資産の取得価額となります。したがって、本問において乙のA土地の取得価額は、乙の支払対価であり収入金額とされる5,000万円が交換取得資産の取得価額になるものと考えられます(所法60、相法9、平元・3・29直評5・直資2-204))。
一方甲の取得価額は支払対価のうち収入金額とされる5,000万円が取得価額と考えられます。
(注)譲渡価額(負担付贈与の負担額)が、時価の2分の1未満であり、かつ、贈与者の取得価額を下回る場合(譲渡損失が計上される場合)には、譲渡者(贈与者)の譲渡損失はなかったものとみなされ、譲渡者(贈与者)の取得時期と取得価額は譲受者(受贈者)に引き継がれます(所法60①、所基通60-1)。