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不動産取引における相続税法7条の「著しく低い価額」

みなし贈与の条文である相続税法7条は「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす。」と規定しており、財産の譲受の対象が土地や家屋等の不動産である場合には、著しく低い対価の判定基準である「財産の時価」は「通常の取引価額」に相当する金額によって評価するとされています(*1)。

*1:「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」:平成元年3月29日付け直評5・直資2-204通達1(以下「負担付贈与通達」という。)

このことは、不動産譲渡の支払対価が通常の取引価額未満であれば「著しく低い対価」とされ、その支払対価と通常の取引金額との差額に対して贈与税の課税がされるということになりますが、同時に、財産評価の原則である相続税評価額が通常の取引金額と同額若しくはその範囲内であれば、財産の譲受が不動産であったとしても相続税評価額による支払対価は著しく低い価額とはならずに相続税法7条のみなし贈与課税は生じないということになります。

相続税評価額による土地の譲渡が著しく低い価額の対価とされるのかについて争われた事件があります。     平成19年8月23日付の東京地方裁判所民亊第2部判決:裁判所は、時価(地価公示価格)より20%程度低い相続税評価額で譲渡することは、その面だけをみれば経済合理性にかなったものとは言いがたいとしながらも、80%は社会通念上、基準となる数値と比べて一般に著しく低い割合とはみられてはいないこと、相続税評価額は土地取引のひとつとなりうる金額であることから、これと同水準の価額を対価とすることに経済合理性がないとはいえないとし、評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡であるとはいえないと判断しています。                                     国側が、相続税評価額が地価公示価格と同水準の80%であるという差を利用し、実質的には、贈与税の負担を免れつつ贈与と同じ利益の移転が可能となる、と指摘している点も疑問であるとし、同法7条が、著しく低い価額に至らない低い価額の譲渡を許容していることを考慮していないもので妥当でないとしました。また負担付贈与通達については、硬直的に適用すると結果として本件のように違法な課税処分をもたらすことが考えられると指摘しています。

負担付贈与通達がバブル期における土地の相続税評価額の評価水準が急激な地価上昇に追いつかないために生じた課税上の弊害を阻止するために設けられた取扱いであり、また、財産の取得原因が無償譲受であるときの「財産の時価」(*2)が相続税評価額であり、有償譲受けであるときは通常の取引価額であることは、その取得した財産の価値に差がないにもかかわらず、贈与税の課税上、その取得原因によってその価額に差を設けることは、理論的にも問題があるといえます。

*2:「財産の時価」                                          原則:贈与税の課税価格に算入される財産の価額は、法令に特別の定めがあるものを除き、課税時期において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものとされていますが、その価額は、財産評価基本通達に定めるところにより評価した金額とされています(相法22条、財評基1(2))。

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