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無償設定借地権の取得費

 父の土地に長男が自宅を新築した10年後に父に相続が発生し、長男がその土地を相続しました。

 長男が自宅を新築した時に父とは賃貸借契約書を作成しましたが権利金の支払いはありませんでした。長男は年間地代(固定資産税の3倍)を預金口座から定期的に支払っています。

なお、父はこの地代につき不動産所得として確定申告をしていました。

その後、長男が自宅敷地を譲渡した際の借地権の取得費はどのようになるでしょうか。

*借地権の存否の判断につきましては別項に記載させていただきます。

1.旧借地権部分の取得費

 所得税法60条1項に贈与等により取得した資産の取得費等として「個人から贈与により取得した資産(譲渡所得の基因となる資産:所法59条1項)を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と規定されています。

 しかし、この取得費の引継ぎに関する規定は「譲渡所得の基因となる資産」の移転への適用であって「借地権の設定」はそもそも譲渡所得の基因となる資産の移転には該当しないため、この取得費の引継ぎ規定の適用はありません。

2.収入金額からの借地権の取得費

 所得税法36条1項において収入金額に算入すべき金額として「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とする」とし、同条2項において「その価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする」とされています。

 このことは、その物又は権利の取得費は、その物又は権利を取得した時におけるその時価に相当する金額がその後の譲渡に係る取得費となることとなります。

 借地権の取引慣行がある地域において借地権が無償で設定された場合には、個人である借地権者が受ける利益(借地権を取得した時におけるその借地権の時価に相当する金額)は、贈与により受けた利益とみなされて贈与税の課税対象とされることから、所得税の課税の対象とはなりません(相法9,所法9①15)。しかし、借地権を無償で取得したことによる利益は非課税所得であっても、無償による借地権の取得は所得税法上の権利による収入ですから、その借地権の取得費は、その借地権を取得した時におけるその借地権の時価に相当する金額となります。

 したがって、長男の自宅敷地にかかる旧借地権部分の取得費は、長男が借地権を取得した時のその借地権の時価(通常の取引価額)に相当する金額となります。

 長男が無償で借地権の設定を受けたことによる利益は贈与税の課税漏れとなっていますが、税務署長が決定をすることのできる期間は既に経過しているため、借地権設定時の贈与税について課税されることはありません。

 なお、贈与税の課税漏れが旧借地権部分の取得費の算定について影響を及ぼすことはありません。

3.旧底地部分の取得費

 相続により譲渡所得の基因となる資産を取得した場合には、その資産を取得した相続人は、被相続人がその資産を取得した時から引き続きその資産を所有していたものとみなされ、被相続人の取得費を引き継ぐものとされています(所法59①1、60①1)

 土地の所有者が、建物の所有を目的とする借地権の設定に際しその設定の対価(権利金等)を取得した場合で、その設定の対価の額がその土地の時価の50%相当額を超えるときは、その設定の対価は譲渡所得とされ、その土地の取得費のうちその設定の対価に対応する部分の金額としてその譲渡所得の取得費とされる金額は、その土地の取得費から減額すべきものとされています(所令174①、175①)。

 父は長男の自宅敷地について借地権を設定した際に、借地権の設定の対価を取得していませんから、父の土地の取得費について、この取得費から減額される金額はありません。

 したがって、長男が相続により取得した土地の旧底地部分の取得費は、父の土地の取得費に相当する金額となります。

 その結果、上記2の旧借地権部分の取得費の金額を併せた金額が長男の自宅敷地の売却に係る取得費となります。

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