甲は乙に対して3,000万円の貸付けをしました。その後、回収の見込みがないため甲乙間の話し合いにより、貸付時の担保であるA土地を代物弁済により取得しました。
甲が乙から取得したA土地を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費はどのようになるでしょうか。
甲が乙から取得したA土地は代物弁済により取得した土地に該当します。
所得税法は固定資産の取得価額について一般的・包括的な規定を置かず、固定資産のうち減価償却資産についてのみその取得原因別にその取得価額の算定方法を定めています( 所令126 )。
所得税法施行令126条1項5号は、「前各号に規定する方法以外の方法により取得した減価償却資産の取得価額」として「その取得の時におけるその資産の取得のために通常要する価額」と「当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」の合計額をもってその取得価額としていますが、代物弁済に取得した固定資産である土地の取得価額については明文の規定がありません。
減価償却資産である固定資産と減価償却資産以外の固定資産の取得価額について、所得税の課税上差異を設ける合理的な理由はありませんから、所得税法施行令第126条の規定は、減価償却資産以外の固定資産の取得価額に準用されると解すべきでしょう。
なお,代物弁済を受けた時のA土地の通常の取引価額は、簡便法として、代物弁済により取得した年のA土地の相続税評価額を0.8で割り戻した金額によることができるでしょう。
また、代物弁済により取得した資産の「その取得の時におけるその取得のために通常要する価額」と「その代物弁済により消滅した債務の額」が同額、あるいは両者の間に開差があるかどうかとを問わず、代物弁済により取得した資産の取得価額は一義的に定まることになりますが、差額がある場合にはその損益について課税が生じます。